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―――こうたのは、こふたのは。







そのれい 小唄の葉










「――綺麗ねえ」



 彼女は言う。
 のんびりとしたトォンで紡ぎ、語尾を若干間延びさせながら。
 平素と何ら変わりない、緩い笑みを口許に湛えた侭に。
 人には良く、「何も考えていなさそうな顔」だと揶揄られるものだが、主のそんな処が従者は好きだった。



「不思議ね、まるで、夢の中に居るみたい――――」




 好きだ。
 好きなのに。
 好きでいた、筈なのに。
 これからも何時までも変わらぬ、喪われることは無いと信じていたのに。





「あ、あああ、っあ、や、あああああああああああああ」






 灼けた喉からは掠れた音しか出ない。
 其れすらも言葉に為らず、呻き声に似たものが漏れるのみ。
 両足はがくがく震え、未だ立っていられることが不思議な位である。前進しようと歩を進めた、つもりで居ても、満身創痍の身体は一寸も動いてくれやしなかった。
 視界が霞む。耳鳴りは止まない。
 閉じそうになる意識を気合だけで無理矢理こじ開け、再び前を見据えた。




「あっ、あっぁぁああぁ、うううぅううぅううう」



 本当は今直ぐにでも駆け出したい。
 身体等捨てても良い。命を落としても構わない。
 こんな時に何の役にも立たない生身なぞ要らない。今。たった今此の瞬間だけでもあらゆる重力から解放されたいと、心から願った。


 行かなければ。直ぐ目の前に居るんだから。
 せめて魂だけでも、彼女の許へ。


 こうしている間にも。彼女は。彼女が。彼女の。彼女へ。





「ねえ、妖夢――」




 少女は訊ねる。
 こんな時だと言うのに何時ものペースで話す彼女は、己の気持ちを知ってか知らずか、妙に落ち着いていた。
主の呼び掛けに応えようと唇を動かすが、零れたのは僅かな嗚咽だけだった。

 彼女の声が先刻よりも何となく聴こえ辛いのは、己が耳をやられた所為か。
 此の場を包む強烈な光が、己からとうとう感覚を奪い始めたのか。
 其れとも、ソレとも、ああ、あああ、―――認めたくない。認めやするものか!

 ―――彼女の存在が、なくなりつつあるのだなんて!




「妖夢、見て。私が、散らばっていくわ」

「ねえ妖夢、これが、これが命なのね」

「私が奪ってきた全て。私をかたどっていた総て。見ていて、すべてが還って逝くわ」




 光。虹色。薄紫。白。淡。
 か細い身体が粒子になり崩れていく。
 憎々しい程に眩い光の奔流に、身体を、霊体を呑み込まれながら。


 少女は消える。
 其の命を、背に負うた桜の開花に代えて。


 少女は消える。
 辺り一面に舞う桃色の花弁は、まるで彼女を喰い尽すかの如く。



 ひらり。ひらり。
 花弁が、狂い、踊る。




「――っあ、゛ああああああ、あ……あああああああ………!!」



 やだ。いやだ。やめて。やめてください。
 まだ。まだ早い。早すぎる、此処に居て下さい、お願いします、いや、やめて。


 懇願にも似た縋る声はしかし。言葉に変換されない侭、呻く様な叫びが続く。
 眩んだ双眸から溢れる涙は蒸発し、真っ赤な血が頬を濡らす。
 最後の力を振り絞り、従者は主へ向かって手を伸ばした。
 焼け焦げ、死の香纏う、護る立場としては心細いばかりの手を。
 懸命に主を護らんと足掻く、未熟な、一途な従者の手を。

 主は何時もの様に微笑んだ、気がした。
 既に二の腕まで光の粒子と化した右腕を従者の方に向け、再度、笑む。




 何時もと変わらぬ彼女の微笑は、儚く、とても儚いのに。
 最期とは思えぬ程、充足感に満たされて居た。









         「―――さようなら、妖夢」












 従者の指先と、形を失くした主の指先が、掠めるか、掠めないかの瞬間。
 使い古した別れの言葉が、虚空に、融けて。


「―――――……っあ……… ?」



 辺りを包んでいた光が嘘の様に消え、庭に静寂が戻る。
 其処には何ら異常な処は無い。何時もの、何時も通りの、静かな静かな冥界。

 残されたのは傷だらけの少女と、彼女の眼前の桜。
 満開に咲き誇り桃色を纏う桜の大樹は、うっすら仄明るい光を花弁に灯し、春の景色を作り出している。


 残されたのは。

 従者と。

 命を糧に咲いた妖桜と。



 其れと。其れと。




「―――――」


 ぺたん、と其の場に座り込む。
 未だ信じられない、と、いやいやと力無く首を振る。
 見開いた双眸からは、ぼたぼたと、大きな涙の粒が溢れては落ちていく。


『妖夢』


 どんなに否定しても。
 どんなに拒絶しても。



「あ…いや………厭ぁあ…………」




 事実は覆らない。
 此処には、操る運命すら存在しない。




『ねえ、妖夢―――』






 従者の護るべき主は、もう、    居ない。








        「―――幽々子さ゜ま゛、ァ………ッ!!!」





        『―――私、幸せだったかしら……?』





 妖夢の慟哭が、無力に響く。
 嘆きと憎悪を向けられても尚、妖桜――西行妖は、酷く綺麗に美しく、主の色の花を咲かせて居た。















++++++++++++++++




やっと創作物らしいモノ置けた…!! お久しぶりです(?)、真朱です。
夜中にPCつけていたら短いの思いついたので、走り書き。拙いですがこのサイトでの初SS。
最近白玉楼組の株が上がりまくりなので彼女達の話を。
書いている内にあれも書きたい、これも書きたい、と次々と思い浮かんでしまったのですが、一日で完成できそうにないのでこんな感じにコンパクト(?)に纏めてみました…。オチついていないのは私の腕不足です。

もし西行妖が完全に開花していたら。
其の時、西行寺幽々子、という存在はどうなってしまうのでしょうか。
まあ成仏するんでしょうけど。
個人的な解釈という名の妄想も入ってしまいましたので、これおかしいだろ、て処あっても適当に流しておいていただければ幸いに御座います…。


続きものっぽくナンバリングつけてみましたけど、続かないんじゃよ、これが。
一応続きは書いていますけどこれ以上はきっと誰得。

コメント

No Subject

コンパクト妖夢

前後の話があったら気になる( ^ ω^)

No Subject

>ペプチドさん

コメント有難うございますー。
後はともかく前の話は無いんです。ごめんなささ。
唐突に妖夢が痛めつけられてて唐突にゆゆさまが成仏します。何て取り留めのないバッドエンド。

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プロフィール

マカキセキ

Author:マカキセキ
「なんか好き。」代表。シナリオとか作画補助とか雑務とか色々やってます。
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